ステイトリー・ホテルで会いましょう
私の言葉を聞いて柊が顔を歪めた。

「だって、そうでしょ。柊はいつ帰ってくるかわからないんだから、私を束縛しないで。私、三十歳ぐらいで結婚したいなって思ってるんだから」

なんて嘘だ。結婚するなら柊がいいと思ってた。でも、それを言うと、柊の夢の足枷になる。だから、それは私だけの夢として心に留めておく。

「今から五年、か……」

柊がぼそっとつぶやいた。

「うん。だから、友達に戻ろ?」

柊は視線をカーペットに落としたが、やがてゆっくりと私を見た。まだ迷いの残っている吹っ切れていない顔だったけど、彼は「わかった」と言った。 

クリスマスイヴにこんな話をすることになるなんて、思ってもみなかった。一人でトイレにこもって大泣きしたい気分だったけど、それじゃ、柊は笑って出発できない。

だから、私たちは部屋でシャンパンを開け、チーズやナッツをつまみながら、朝までお互いの夢の話をした。未来を見たら語り尽くせないくらい言葉が湧いてきた。

翌朝になってチェックアウトしたあと、別々の道へと歩き出す前、柊がまじめな顔になって口を開いた。
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