ステイトリー・ホテルで会いましょう
「もし……五年経って、お互いまだフリーだったら……結婚しよう」

寝不足で二日酔いで、頭がまともに機能していなかった私は、笑って返事をした。

「いいよ。まだフリーだったら、五年後、三十歳のクリスマスイヴにこのホテルのバーで六時に会おう。会えたら昨日と同じエグゼクティヴスイートに泊まろ?」
「約束だ」

柊が右手の小指を立てて私に向けた。

「うん」

小指を彼の小指に絡めた。子どもみたいに「指切りげんまん」を歌って指を解いた。それが、彼に触れた最後だった。


ブレスウォッチを見ると六時十分前だった。彼は来てくれるだろうか。

期待しちゃダメだと自分に言い聞かせながら部屋を出て、エレベーターで一階に下りた。不安と緊張でドキドキしながら約束のバーのドアを開ける。店内にはカップルが二組いるだけで、柊の姿はない。

まだ六時ちょうどだし、落胆するのはやめよう。なんて、やっぱり期待している私。

さすがにイヴの夜にお一人様は想定されていないのか、係の男性に「お好きなお席へどうぞ」と言われた。私はカウンターの隅のスツールに腰を下ろす。

「お連れの方を待たれますか?」

パリッとした制服姿の男性バーテンダーに声をかけられた。

やっぱりお一人様は想定されてないらしい。
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