ステイトリー・ホテルで会いましょう
内心苦笑して、どうとも取れるように首を横に振った。

柊が来なければ連れはいないし、来るかどうかわからない彼を待つつもりもない。

望み薄だということはわかっていた。柊が誰かと結婚しているかも、という意味ではない。たぶんまだ独身だと思う。でも、フリーではないはずだ。だって、仕事と結婚しているようなものだろうから。

その想像にクスリと笑ってしまった。

小さく咳払いをして注文をする。

「ミモザをお願いします」
「かしこまりました」

バーテンダーはフルート型のシャンパングラスをカウンターに置き、シャンパンとオレンジジュースを注いでバースプーンで軽くかき混ぜた。それをコースターにのせて私の前に置く。

「おまたせしました」
「ありがとう」

カクテルはミモザの花と同じ名前の通り、黄色みを帯びた鮮やかなオレンジ色をしている。

グラスを手に取ってじっと見つめる。

フリーなのは私だけ。まあ、私も仕事と結婚しているようなものだけど、心の中にはちゃんと柊の部屋があった。そのドアをときどき開けて彼のことを考えた。

初めて訳書が出版されたんだよ。柊もがんばってる? ブラジルは暑いよね。ジカ熱は大丈夫?
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