誓いのキス
『プロのモデルより一般人を起用する事で親近感を出したい』
私にそう説明し、私をこの場に立たせたのは彼だ。
どうして私なのかは分からない。
私はフロント課に所属していて、仕事はフロントに立ってお客様のチェックインをしたり、精算する事だから。
それでも決定事項として通達されてしまえば会社員としてその業務命令に背く訳にはいかず、真っ白なドレスに身を包んだけど、モデルの経験なんてあるわけもなく、カメラを向けられて自然な笑顔なんて出来るはずがない。
彼が言う「高級感満載のチャペルに非の打ち所がないモデルさんでは憧れは抱けても現実的でない」という理屈は理解出来ても、カメラマンを納得させられる表情を作ることは出来ないのだ。
もうかれこれ2時間は経つ。
カメラマンやスタッフのイライラしている様子が雰囲気だけで伝わってくる。
それは彼も同じようだったようで、腕組みをゆっくりと解き、「休憩」という声をチャペルに響き渡らせた。
と同時に雰囲気作りのための賛美歌が消え、代わりに聞こえてきたのはため息や首を振り肩を鳴らす音、そして私を起用した男性へのバッシング。