誓いのキス
そしてその20分後。

目の前にはタキシード姿の彼。

その姿はモデル顔負けで、プランにはなかったにも関わらず、新郎に向けてカメラのシャッターが際限無く切られる。

「素敵よ!素敵!腕がなるわー。こんな新郎役が付いているなら新婦も良い笑顔出来るでしょ」

見惚れてしまう。
素敵だ。
こんな人が祭壇の前で待っていてくれたのなら、この場所には幸せ以外の何もないと素直に思える。

「ほら、想像してみなさい。素敵な彼との幸せな未来を。そして皆んなに祝福され、羨望の眼差しを向けられる自分を」

カメラマンは上手い。

私の気分をさらに高揚させる。

でも今度はドキドキし過ぎて、顔を見れなくて、笑顔がうまく出来ない。

するとそれを察したカメラマンが彼におうむ返ししてみろと指示した。

『今日の君は美しい』

「今日の君は美しい」

『こんな素敵な女性を妻に出来て嬉しい』

「こんな素敵な女性を妻に出来て嬉しい」

『僕は幸せだな〜』

「僕は幸せだな〜」

最後の台詞がどこかの歌謡曲の台詞のようで吹き出してしまった。
真面目な彼が言ったのが余計におかしかったのかもしれない。
でも

「あら、いいじゃない!その笑顔よ」

自然と出た笑顔。
そして私に向かってのさっきまでとは明らかに違うシャッター音。
そうしたら気持ちがフッと楽になった。
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