誓いのキス
「そういえば君は褒めて伸びるタイプだったな」

隣に立つ彼が小さな声でそう言った。

「でもそれとは関係なく言うぞ」

「え?」

「俺の目に狂いはなかった。君は最高に美しい」

賛美歌とシャッター音でおそらくカメラマンやスタッフには聞こえていないと思う。
でも私の表情が固まり、みるみるうちに赤くなる顔色にカメラマンは何かを察した。

笑顔でも指示通りでもない表情であってもカメラマンが撮影をストップしなかったのはその表情が初々しくて良かったらしい。

事実、その写真が宣材写真に使われていた。

と同時に新郎役である彼に任せていたとも言っていた。

ただその時はお客様の前以外で滅多に微笑まない彼が優しい眼差しを私に向け、手を取り、向き合う姿勢を取った事が仕事だと分かっていても驚きドキドキした。

「この仕事を引き受けてくれてありがとう」と言ったのは律儀な彼らしいけど。

「仕事ですから」

このなんとも可愛いくない返答は恋愛下手な私らしい。

案の定「可愛くないな」と言われてしまったけど、そこで笑った彼の笑顔につられた。
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