副社長とふたり暮らし=愛育される日々
私のシンプルな服を着た七恵だけど、彼女だとなぜ地味に見えないのだろうか……。やっぱり顔立ちが華やかだから?

少々ヘコんでいることになんて気づいていないだろう七恵は、私をしっかり鏡と向き合わせる。そして、まだつけたままのライトブラウンの長いウィッグを、ラフな編み込みにしていく。

その一本に編み込んだ髪を左側に流し、今日私が被ってきたニット帽と、黒縁の眼鏡をつけられると……。


「うわ、誰これ!」

「ね? りらでも瑞香でもないでしょ」


七恵は驚く私の両肩に手を乗せ、満足げに微笑んだ。

彼女の言う通り、りらのばっちりメイクをしたままでも眼鏡のおかげでカモフラージュされるし、帽子とヘアアレンジでさらに雰囲気が変わる。

これなら確実に瑞香ではないし、パッと見ただけではりらだとわからないはず。

「服とウィッグはまた返してね」と言って、メイク台の上を片づけ始める彼女に、私は尊敬と感謝を込めた眼差しを向ける。


「さっすが七恵さま……! 恩に着ます」

「その代わり、昨日と今日これからのこと、洗いざらい話してもらうからね」


クイッと口角を上げる七恵にギクリとする。そういえば、まだ副社長とのことを言っていないんだった……。

また恥ずかしい記憶が蘇ってしまい、私は目を泳がせつつ「承知いたしました」と返事をした。


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