副社長とふたり暮らし=愛育される日々
歩いている最中、私は自分よりも海都くんがバレないだろうかと内心ハラハラしていた。けれど、特に声をかけられることもなく、無事お店に到着した。

やってきたのは、スタジオの最寄り駅近くにある、隠れ家のような居酒屋。

オレンジ色の明かりが灯る、焦げ茶色の板張りの店内は、落ち着いたクラシカルな雰囲気で、小さな個室の中には掘りごたつがある。そこに向かい合って腰を下ろした。


「ここ、ノンアルコールも、おつまみ以外の料理もたくさんあるから、もしりらさんがお酒飲めなくても楽しめるかなと思って」

「わ、ほんとだ。私あんまり飲めないから嬉しい」


海都くんが開くメニューを覗き込んで声を上げると、彼も嬉しそうに目を細めた。

飲み物と料理を適当に頼み、しばらくたわいない話をする。そうしているうち、海都くんはすっかり敬語が取れていて、気さくな彼のおかげでふたりきりでも変な気を遣わずに話せていた。

このお店イチオシだというトマト鍋を取り分けながら、最初から気になっていたことを聞いてみる。


「海都くんって帰国子女なんだよね。やっぱり英語ペラペラなの?」

「まぁ、日常会話くらいは」

「すごいなぁ。私は全然喋れないから尊敬する」


感心する私に、海都くんは「住んでれば嫌でも話せるようになるって」と言って笑う。

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