副社長とふたり暮らし=愛育される日々
「中学の時にね、気になってる人がいたんだけど、それが噂になって、本人の耳にも入っちゃったの。で、彼が陰で話してるのを聞いちゃったんだよね。『あいつは地味で可愛げがないし、好かれても正直迷惑』って」


気になっていたのは同じクラスの優等生タイプの男子。とても人気があって、私にも優しく接してくれる人だった。

だから惹かれたのだけど、彼が放った言葉より、そんなことを言う人だったということがショックで、私の恋心は一気に冷めていった。

黙って聞いていた海都くんの顔が、いつの間にか怒ったようにムスッとしている。


「何様だよ、そいつ」


ボソッと漏らされたひと言がなんだかおかしくて、私は笑ってしまった。そして、胸の内から湧いてくる本音を漏らす。


「でも、あの人が言ったことは間違ってないよ。今でも普段は存在感ないし、甘え上手でもないし、可愛げなんかないって自覚してる。恋愛にもたいして興味なくて、ずっと恋せずにここまで来ちゃったからわからないんだ。どうなったら好きだって言えるのか」


あの時の彼ですら、本当に好きだったのか怪しい。

本当に好きだったら、きっと簡単には諦められなかっただろうし、胸が切り裂かれるような痛みも伴ったはず。

でも、私は涙ひとつ出なかった。ショックではあったけれど、“やっぱりね”という気持ちもあって、すぐに忘れられたのだから。

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