副社長とふたり暮らし=愛育される日々
すっかり話し込んでしまい、気がついたときには午後八時を過ぎていた。
そろそろ帰ろうということになり、海都くんに押しきられて申し訳なくなりながらも会計をお任せしていると、私のスマホが鳴り出す。
画面に表示されるのは、副社長の名前。ドキリとしつつレジ前にいる海都くんから離れ、スマホを耳にあてた。
控えめな音量で「もしもし」と言うと、ほんのわずかだけれど張り詰めているような彼の声が聞こえてくる。
『今仕事終わって、メール見たよ』
「遅くまでお疲れ様です。すみません、夕飯作れなくて」
『そんなことはいいんだが……瑞香、まさか宝生海都とふたりで飯食ってんじゃないよな?』
疑心を露わにしたような、あまり穏やかでない声色で問いかけられ、どうしたんだろうと思いながらも事実を答える。
「そうです、ふたりで。でももうお店出るとこで、これから新宿駅に向かうので」
そこまで言うと、会計を終わらせた海都くんが、財布をしまいながらこちらにやってくる。私がそれに気づいたとほぼ同時に、顔を上げた彼はこんなひと言を言い放った。
「じゃありらさん、俺の家に行きましょっか!」
……は!? 海都くんの家!?
ギョッとする私は、慌てて「す、すみません、またあとで!」と告げて電話を切った。