副社長とふたり暮らし=愛育される日々
「海都を前にすれば誰もが恋に落ちるって言われるくらいだし、りらちゃんも自然と恋する乙女の表情ができると思うんだよ」


柴田さんに目線を戻すと、自信満々でガッツポーズをしている。

彼の心意気はしっかりと伝わったけれど、どうしても不安が拭えなくて、私は首を横に振ってしまう。


「いやいやいや、無理です、男の人となんて……」

「大丈夫大丈夫! 絡みはないから、そんなには」

「そんなにはって、ちょっとあるんじゃないですか」


ムスッとして言ったものの、柴田さんは白い歯を見せて笑った。そして私の隣に来ると、“諦めてくれ”とでも言いたげにぽんっと肩を叩く。


「これはもう決定事項なんだ。頼むよ、りらちゃん。……きっとギャラも弾むからさ」


こそっとつけ加えられた最後のひと言に、私の耳はピクリと反応してしまった。

ギャラ……いつもよりお金がもらえるとなれば話は別。私がこの副業をしているのは、そのため以外の何物でもないのだから。

私は鏡越しではなく、直接柴田さんを真面目な顔で見上げる。


「わかりました」

「切り替え早っ」


黙って私たちを見ていた七恵が、すぐさまつっこんだ。

柴田さんは満足そうに笑いながら、「じゃあよろしく!」と言って、颯爽とメイクルームを出ていく。

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