副社長とふたり暮らし=愛育される日々
ドアが閉まった直後、七恵はふぅと息を吐いて眉をひそめる。


「またお金が必要なの? 借金取りに追われてるんじゃないでしょーね」

「だったら今頃夜の蝶になってるよ」


ひらひらと手を動かして茶化す私だけど、わが家のお財布事情は結構深刻だ。

私が暮らしている築五十年ほどの平屋一戸建ては、近所の小学生に“お化け屋敷だ”と恐れられているくらいボロい。それにかかる費用は年々増えていく。


「家がそろそろヤバそうでさ……。この間、ちょっと揺れただけで壁にヒビ入っちゃったし」

「よく住んでるわよねぇ」


今度こそメイクを落としながら、七恵が若干呆れ気味に言う。

これまで何度も引っ越せと勧められてきたけど、そうもいかない理由があるのだ。私は、大切な思い出が詰まったあの家を守りたい。

とは言え、生活費に加えて家の修理費まで稼ぐのは、なかなか大変なんだよなぁ……。

メイクが落ちてどんどん平凡になっていく自分の顔を眺めながら、ため息混じりに呟く。


「サンタさん、私に家をください……」

「そんな太っ腹なサンタいないわよ」


現実的な七恵に心の中では同意しながら、とにかく今は仕事を……なんとかカイトくんとの撮影を頑張らねば、と気持ちを切り替えるのだった。


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