副社長とふたり暮らし=愛育される日々
七恵にはもちろんすべてを白状していて、私たちの行く末をとっても楽しんで見守っている。

そんな彼女は、メイク道具を片づけながら、若干呆れたように言う。


「愛されまくってるのに、それになびかないあんたが不思議でしょうがないわ」

「だって……曖昧なままなびいちゃったら失礼じゃん?」

「世の中の多数派が曖昧なままなびいてると思うけどね」


しれっと言われて、そうなの!?と目を丸くする恋愛超初心者の私。

けれど彼女は、「まぁ、それは瑞香の好きなようにってことで」とアバウトにまとめ、話を仕事のことへ戻す。


「これから結構何回も会議に出るんでしょ? 今日はたまたま私がいたからいいけど、もし都合悪くてヘアメイクできなかったらどうする?」


そうなのだ。制作まで関わるのだから、早くても半年、もしかしたら一年くらいはチームの皆と合わなければいけない。

さすがに、毎回七恵にお願いするわけにはいかないと、私も十分わかっている。


「今日皆と会ってみて、ちょっと免疫つけたら素で体当たりするよ」


覚悟を決めて、そう宣言した。いつまでも本当の自分を隠してはおけないし、春原瑞香としての自信を持つって決めたんだから。

……さすがに初日から素で現れる勇気はなかったのだけれど。

< 144 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop