副社長とふたり暮らし=愛育される日々
私は中途半端に頭を下げたまま固まる。

“足を引っ張るな”? 確かに私は香水作りに関しては初心者だけど、初対面の、しかもこれから協力してやっていかなきゃいけないビジネスパートナーに向かって、それ言う!?

冷笑を浮かべた三嶋さんは、コツコツとパンプスを鳴らして石化した私の横を通りすぎ、オフィスの中へ入っていく。

なぜ……なぜなの……。こうなると、さっきのひと言も絶対嫌味だし!

私、嫌われているのかな……と、ものすごく先行き不安になっていると、廊下の奥にあるエレベーターの扉が開き、眼鏡をかけた男性が現れた。

私に気づき、「りらさん」と声をかけてこちらに歩み寄るその人は、今日も無表情だけれど、ほんの少し焦燥感を露わにしている。


「明智さん……! こんにちは」


再び頭を下げて挨拶した私は、そういえば彼にもよく思われていないんだった、と思い出す。

明智さんの副社長ラブ疑惑は、あれから特に深まることも晴れることもなく、私への態度も変わらない。

そんな彼は、ずんずん近づいてくると、私の腕をぐっと掴んだ。


「申し訳ありませんが、少しこちらへ来ていただけますか?」


やや早口で言われ、私はキョトンとする。

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