副社長とふたり暮らし=愛育される日々

副社長室からミーティングルームに向かう間、私は不安でいっぱいだった。

明智さんが忠告してくれたおかげで心構えはできたけれど、知らないほうがよかったような気もする。

というか、その女性陣の前に副社長と一緒に登場して大丈夫なのだろうか。火に油を注ぐことにならないといいんだけど……。

五階に着き、ミーティングルームに入る直前、突然朔也さんがこちらを振り向いた。


「緊張してる?」


そう問いかけられ、身体を固くしたままぎこちなく頷く私に、朔也さんはクスッと笑う。


「いつものお前でいればいい。変にうまくやろうとしないで、肩の力抜いていけ。落ち込むこともあるかもしれないが、帰ったら俺が話聞いてやるから」


……朔也さんの言葉は、本当におまじないみたいだ。ひと言かけられただけで、身体も心も軽くなっていくのだから。

口元からも余分な力が抜けた私は、やっと少し笑うことができた。それを確認した朔也さんは「よし」と言ってドアを開け、私も続いてミーティングルームに入る。

二十人ほどが入れるそこには、長いテーブルを挟んで向かい合わせに十二人ほどが席についていた。朔也さんの登場で場の空気が引き締まるのがわかる。

彼に挨拶をした皆の視線は、今度は私に集中する。男性は数人で、半分以上が若い女性だ。

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