副社長とふたり暮らし=愛育される日々
つい疑心暗鬼になってしまいつつも、とりあえず笑顔を絶やさずにいると。


「特技は?」

「へっ?」


朔也さんが急にそんなことを聞くから、思わず間の抜けた声が出てしまった。

特技って、なぜ今オーディションの時のようなことを……。

ぽかんとして見上げた隣の彼は意味深な笑みを浮かべていて、その目は“いいから答えてみろ”と言うように、私を見つめている。

彼の真意がわからないまま、私はとりあえずあの時と同じことを答えることにした。


「……キャベツの千切り、です」


数秒の間を置いて、若い男性社員がぶっと吹き出した。「すみません、なんかウケました」と正直に言う彼につられて、ほかの皆も笑い出す。

ちょっと、笑い者になってるんですけど。

じとっとした視線を向けるものの、朔也さんもまったく気にすることなく笑っている。そして、「それと?」と再び問いかけてきた。


「それと? ……花のことなら、結構知ってます」


これもオーディションの時と同じように言いながら、ピンときた。もしかして、彼が引き出したかったのはこの答えだったのか、と。

朔也さんは満足げに微笑んで頷く。


「そう、彼女は花に詳しいんだ。香水作りのプロの君たちが手を組めば、きっといい商品を作ってくれる。力を出し合って、最高の仕事をしてくれることを期待してるよ」

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