副社長とふたり暮らし=愛育される日々
湧き上がる独占欲=恋の副作用
香水作りは、まず作りたい香りのイメージを描くことから始まる。花や果物、甘い系か爽やか系かなど、具体的にイメージを伝える。
そして、採用する香料の種類と配合パーセントを決めていくのだけれど……まさかしょっぱなからつまづくことになるとは。
会議が始まり、香水作りのだいたいの説明を受けたあと、私が思い描くイメージを聞かれた。
「私、欲しくてずっと探していたけど、これ!って思えるものがなくて、気になってた香りがあるんです」
そう話すと、誕生日席にいる私の、斜め右に座る営業担当の男性社員が、「と言うと?」と興味深そうに尋ねる。私は期待に胸を膨らませつつ、こう答えた。
「沈丁花(じんちょうげ)です」
沈丁花は、二月末から三月にかけて開花する。手まりのように丸く集まった白い花が、とてもいい香りを放つのだ。
私の家の庭にも、おばあちゃんが植えた沈丁花がある。だから、昔から大好きだった。
「もうすぐ咲き始めるんですけど、ふわっと爽やかで甘い香りがする花なんです。これを嗅ぐと、春だなって感じで」
おばあちゃんの笑顔と、春の訪れを告げる香りを思い出すと、自然と心が穏やかになって笑みがこぼれる。
けれど、良い沈丁花の香水にはなかなか出会えない。たまに見かけても人工っぽい香りで、生花に近いものはないのだ。