副社長とふたり暮らし=愛育される日々
三嶋さんはもう一度私のほうを振り向き、クールな笑みを浮かべて会釈する。


「それじゃ、また」

「あ……お疲れ様でした……!」


勢い良く下げた頭を上げると、彼女は男性社員と話しながらオフィスの中へ入っていった。

ひとりになった私は、その場に立ち尽くす。この間よりも胸がざわめいて気持ち悪い。

……朔也さんは、三嶋さんの気持ちを知っているのかな。

今は私を好きだと言ってくれているけれど、もし彼女に気持ちが移ってしまったら?

髪を撫でてくれる手のぬくもりも、優しい笑顔も、私のそばから消えてしまったら?


「…………嫌だ」


乾いた唇から、ぽつりと本音がこぼれた。

大人なふたりの、お似合いなツーショットを想像すると、心が縄で縛られたみたいに苦しくて、痛くなる。

今、私の中を占めている想いは、ひとつだけ。

──朔也さんを、取られたくない。

こんなの初めてだ。こんなに、誰かを独占したくなるなんて。


『惚れた女じゃなきゃ、手放したくもならない』


朔也さんが言っていたことが、今身に染みてわかった。

この独占欲は、間違いなく恋の副作用。

私、朔也さんのことが、好きなんだ──。




< 177 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop