副社長とふたり暮らし=愛育される日々
「カジュアルフレグランスのMimiは、“香りで人の心を動かす”という目標を掲げ、開発チームが日々試行錯誤して生み出しています。私自身、その香りに心奪われることがありました。つい最近も」


最後の発言が少し気になったのは私だけではないようで、周りの人たちがさらに朔也さんに注目するのがわかる。

彼は優しい表情と穏やかな声で、話を続ける。


「服やメイクでは自分を飾らないのに、Mimiのフレグランスを身にまとっている女性がいたんです。素朴な彼女は、魅惑的な香りを放ちながらも控えめに咲く花のようで……美しいと思いました」


──ドキン、と胸が波打った。

まさか、今の話の女性は……私? そう思ってしまうのは自意識過剰だろうか。

ドキドキしてしまう胸を押さえつつ、私は朔也さんの横顔を見つめ続ける。


「新作のプランタンアムールも、その甘い香りで恋するふたりを引き寄せることでしょう。自信を持って皆様にお届けいたします。私がその証人ですから」


ふっと笑みを浮かべた彼がそう言い切った途端、周りの女性社員からうっとりとしたため息がこぼれた。


「副社長が言ってるのって、やっぱり例の……!? 羨ましい~」


チラチラと視線がこちらに向けられ、コソコソと話す声も耳に入ってきて、私は肩をすくめて俯く。

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