副社長とふたり暮らし=愛育される日々
サンタクロース=ぬくもりをくれる人?
副社長たちが去ったあと再開された撮影では、さっきまでの滞りが嘘のようにスムーズに進んだ。
自分では表情がどう違っていたのかわからない。けれど……。
海都くんを見ているはずなのに、なぜか副社長の顔が頭に浮かんでしまって、また胸の奥がじわじわと熱くなるような感覚がしたことは確かだ。
“目の前の男を好きになる”
副社長は、私の恋する表情を引き出すために、海都くんを好きになるというおまじないをかけたつもりなのだろう。
実際撮影はうまくいったから、その効果はあったのだと思うけれど、私は海都くんに恋をしたような気はしない。
むしろ、あの時目の前にいたのは副社長なんだから、好きになるのは……。
「って、何を真面目に考えてるんだ私は」
大きな銀色のボウルにたっぷり入った、コロッケ用のじゃがいもをマッシャーで潰しながら、私は自分につっこんだ。
撮影から一夜明けた今日は、本職である惣菜屋“ふくろう”で、朝から調理をしている。白い割烹着と帽子を身につけ、マスクをして目だけ出している姿は、“りら”からは想像もつかないだろう。
普段は無心で働いているというのに、今日は昨日のことを繰り返し思い出してしまい、気がつくと手が遅くなっている。