副社長とふたり暮らし=愛育される日々
ズキン、と胸に激しい痛みが走った。

朔也さんは、売上を伸ばすために私を利用していたということ? 彼が私に近づいたのは、すべて計算だった?

抱きしめてくれたのも、『愛してる』と言ったのも、全部、嘘──?

そんなことは到底信じられなくて、信じたくもなくて。私は声を震わせ、否定しようとする。


「そ、んな……そんなこと」

「ないとは言えないよ。会社や私欲のために汚いことしてる人はたくさんいる。そういう人、俺も実際に見てきたし」


私の言葉を遮り、海都くんは揺るぎない声で吐き捨てた。

……違う。朔也さんはそんなことをするような人じゃない。

そう思う反面、彼に愛されているという自信は簡単に揺らぎ始める。元々、脆い自信だったから。

頭の中までぐらぐらしてきた。冷静でいられない私を哀れむように、海都くんは眉を下げて見つめる。


「りらさんは信じてたんだね? 副社長が、あなたのことを本当に好きだって」


──冷えた心がついに凍って、パリンと砕けたような気がした。

改めて考えれば、私のような地味でたいした価値もない女が、副社長である彼に愛されるなんておかしな話だ。

どうして私を好きになったのかもわからないし。話題作りというほかに、理由が見つからない。

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