副社長とふたり暮らし=愛育される日々
私は、ただの駒にすぎないのかもしれない。そうとしか考えられなくなってきて、心も頭の中も冷えていく。

呆然とピアスに目を落としていると、輝くそれがつまみ上げられる。


「……このピアスについてる丸い石、パワーストーンなんだって。これをつけてれば、嫌なものから守って、幸せを呼び込んでくれるかも」


箱からピアスを取った海都くんは、重い空気を変えるようにそう言いながら、おもむろに腰を上げた。そして私のそばに立つと、そっと耳に触れ、ピアスをつけ始める。

それに抵抗する気も、「うん、似合う。綺麗」と言う彼に笑い返す気も起きない。人形のようにされるがままで、ただそこにいるだけ。

海都くんはそんな私に目線を合わせ、気の毒そうな表情を見せて言う。


「りらさん、元気出して?」


元気なんて、出るわけがない。

初めて愛して、愛されていると思っていた人の、その想いは本物ではないかもしれないという疑惑が生まれてしまったのだ。平気でなんていられない。

……けれど、今は仕事中だと言い聞かせ、ピアスを揺らして海都くんに目を向け、無理やり笑みを作ってみせた。


帰ったら、また朔也さんとの生活が続く。

今夜、どんな顔をして会えばいいのだろう。チョコレートを渡して告白……なんて、できそうになくなっちゃったよ。

悲しみと、キリキリする胸の痛みを堪えるように、膝の上でぐっと手を握った。


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