副社長とふたり暮らし=愛育される日々
重い足取りでとぼとぼと歩いていると、少し先に一台の白い車が路駐する。なんとなくそちらを見ていた私は、見覚えのある車種とナンバーに気づいて、一旦考えるのをやめた。

あの車……もしかして。

少し足を早めてそれに近づいていくと、助手席のウインドウが下がって、予想通りの人物が顔を覗かせた。


「やっぱり、りらさんでしたね」

「明智さん!」


私に気づいて車を停めたのか……。まさか彼にも会うとは、びっくりした。

今日も無愛想な明智さんだけれど、こんなことを言ってくれる。


「今お帰りですか? 副社長のマンションへ向かうなら、お送りしますよ」

「えっ!?」


明智さんが私にそんな気を回してくれるとは思わず、裏返った声を上げてしまった。

送ってもらえるのはありがたいけど、なんだか気が引ける。


「そんな、悪いですよ。明智さんもお帰りでしょう?」

「方向が同じなので手間ではありません。……私と同じ空間にいるのが嫌だと言うなら結構ですが」

「いっ、いいいえ全然、嫌だなんて!」


棒読みで付け加えられた最後のひと言に、私は慌ててぶんぶんと首を横に振った。

明智さん、今みたいに言われたら断れませんって。いや、本当に嫌なわけではないんだけども。

苦笑いしつつ、お言葉に甘えて後部座席に乗せてもらうと、車はゆっくり発進した。

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