副社長とふたり暮らし=愛育される日々
「りらさんはどうなさるのですか? 副社長が発ったあとは」


その意味がまったくわからず、私は目をしばたたかせて首を傾げる。


「え? “発ったあと”?」

「四月から長期の海外出張に行かれるじゃないですか。その間、りらさんはやはりご自宅へ帰られるのかなと」


明智さんの説明を聞いて、一瞬脳がフリーズした。

長期の海外出張? そんなの、朔也さんはひと言も……。

そして、すぐに思い当たった。さっき三嶋さんが『しばらく朔とも会えなくなるのね』と言っていた意味は、この件のことじゃないだろうか、と。

なんの言葉も発せず固まる私の様子に、おかしいと気づいたらしい明智さんは、はっとして問いかける。


「りらさん……まさか、ご存じありませんでしたか?」

「存じ上げませんでした……」


ぽつりとこぼすと、彼は珍しく“しまった”というような顔をして、決まりが悪そうに目線を前に戻す。


「それは……失礼いたしました」

「海外ってどこへ? どのくらい行く予定なんですか!?」


焦燥に駆られ、彼の言葉に被せて、畳みかけるように尋ねた。

しかし、明智さんは気まずそうな表情で眼鏡を押し上げ、口を濁す。


「副社長がおっしゃっていないのなら、私の口からお話するわけには……」

「私が無理やり聞いたことにしていいです。教えてください!」

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