副社長とふたり暮らし=愛育される日々
「はぁ……なんか疲れた」


一通り家事を終えて、ゆっくりと湯船に浸かると、そんな独り言がこぼれた。

身体じゃなくて、心が疲れきっている。それでも、やっぱり入浴中はいろいろと考えてしまい、浴槽にかけた両腕に顎を乗せて、ぼうっとしていた。


結局、明智さんの朔也さんに対する想いは恋心ではなかったのか……。なぜかホッとするけど、今問題なのはそれじゃない。

事実を知れば知るほど、朔也さんがわからなくなる。なのに、彼への想いを消すことなんてできないのだから不思議だ。

……朔也さんって、海みたいだな。優しい波で誘う、青くて綺麗な海。

浜辺で遊んでいるうちは楽しくて、幸せだけど、気がついた時には沖に流されてしまって、もう戻れなくなっている。もがけばもがくほど苦しいだけで、戻り方もわからなくて、溺れてしまうんだ。

あなたの愛で、私を浮き上がらせてくれれば、幸せに漂っていられるのにな──。



「……か……瑞香!」


聞き慣れた声が耳に入ってきて、はっとした。ぼんやりした頭に、ぼんやりした視界。

……ん? もしかして私、今寝てた?

そう思った瞬間、勢い良く両腕を掴まれ、ザバッと湯船から引っ張り出された。

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