副社長とふたり暮らし=愛育される日々
私は胸にぎゅっとルームウェアを抱きしめ、なんとか誤解を解こうとする。


「あの、受け取れないって言ったんですけど……」

「でも、今日はつけてたんだろ」


間髪入れずに冷たさを感じる声が投げかけられ、私はまた口をつぐんだ。

別に深い意味があってつけていたわけじゃない。そう言いたいけれど、口元にだけいびつな笑みを浮かべて私のほうを向く彼に萎縮し、言葉が喉に詰まってしまう。


「本当は嬉しかったのに、俺に悪いと思って断ったんじゃないのか?」


落ち着いた声にも、私を見る瞳にも、怒りというより悲しみが含まれているような気がする。

けれど、彼が言うようなことなんて思っていない。私はぶんぶんと首を横に振り、「違います!」と否定した。

しかし、朔也さんは聞こえていないかのように、淡々と質問を続ける。私を責めるでもなく、ただ事実を確認するように。


「急にモデルに力入れてやっていこうって気になったのも、あいつのおかげだったりする?」


そう言われて、先月の終わりのことを思い出す。海都くんと、撮影が終わって食事をしに行った時のこと。

たしかに、彼に背中を押されたのも、やる気になったひとつの要因ではあるけど……と思っていると、朔也さんは目を伏せ、「前からそんな気はしてたんだ」と呟いた。

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