副社長とふたり暮らし=愛育される日々
朔也さんは、驚きと困惑が混ざった表情をして、少しだけ考えを巡らせる。そして、何かを悟ったように「そうか……」と呟き、私からゆっくり身体を離した。


「すまない、瑞香」


申し訳なさそうに目を伏せて謝る彼を見て、希望が断たれた気がした。

謝るということは、私が言ったことを認めるということでしょう? やっぱり、私は本命ではなかったんだ……。

そう思うと、目の前が真っ暗になるような感覚がして、ここから逃げようと、無意識に身体が動き出す。

ルームウェアを持ち、ベッドから降りてドアのほうへ向かおうとすると、ぐっと腕が掴まれた。朔也さんが焦燥を露わにして引き止める。


「待て、話を聞け」

「ごめんなさい……今は、冷静に聞けそうにないので」


彼の顔を見れず、俯いて涙声で言うと、手を振りほどいて足早に歩き出す。「瑞香!」と呼ぶ声が、急いで閉めたドアの向こうに消えた。

私の荷物が置いてある仕事部屋に入ると、着替えもせずに力なくしゃがみ込む。

……真実を知りたかった。それなのに、いざとなると怖くて逃げ出してしまうなんて。


「意気地なし……」


ぽつりと呟いて、次々とこぼれ落ちる涙を拭った。

パンドラの箱を開けてしまったような、絶望感を抱きながら。




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