副社長とふたり暮らし=愛育される日々
芳江さん情報によると、ジェントルは今くらいのお昼時に、週に一回ほどのペースでやってくるという。

彼に会えた日は、黒毛和牛が特売で買えたくらいラッキーなのだと言っていたっけ。微妙な例えだけど。


「相変わらず人気ですね。そんなにカッコよくて紳士なんだ」


丸めたタネに衣をつけながら淡々と言うと、窓を見ていた芳江さんはぐりんと首をひねり、丸い瞳で私をまじまじと見て力説する。


「そりゃもう俳優並よ! 私らおばちゃんたちの目の保養、女性ホルモン剤、アンチエイジングになって当然!」

「イケメンは世界を救いますね」


真面目に頷く私に、芳江さんも再び手を動かしながら何気なく問いかける。


「瑞香ちゃんは興味ないの? たまにはお兄さん以外の男の子と、クリスマスと誕生日お祝いしたくならない?」


その言葉で、私はまた動きがスローになってしまう。今度は副社長ではなく、別の人のことが頭をよぎって。

私には、年の離れた兄がいるけれど、両親はいない。ふたりとも、私が八歳の時に事故で亡くなった。

それからは、祖父母が私たちの面倒を見てくれていた。そのふたりも数年前に天国に逝ってしまい、今私の誕生日を祝ってくれる家族は兄だけ。

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