副社長とふたり暮らし=愛育される日々
「あー美味しい。沈丁花はいい匂いだし、幸せ」

「あぁ。もうすぐ春だな」


お兄ちゃんも花に目線を移して、柔らかな笑みを見せた。

すると、茶色の毛並みの小さな訪問者が、ちょこちょこと庭に侵入してきた。


「お。また来たよ、野良猫」

「毛並み綺麗だね。前も来たの?」

「最近よく来るんだよ。なー、タマ」


名前のセンス……とつっこむのはやめて、嬉しそうにかまうお兄ちゃんを微笑ましく見守る。可愛い声で鳴くタマも懐いているみたい。

でも、「瑞香がいない間、代わりにこいつを可愛がってたら愛着湧いちゃってさ」と言う彼に、一抹の不安が過ぎる。

一体、いつになったら妹離れしてくれるんだろうか。もういい歳なんだし、早く結婚もしてもらいたいんだけど。


「お兄ちゃん、彼女作ったら?」

「んー、なんか今はそんな気にならないんだよ。女装バーで働いてたせいかな」


何気ない調子で言う彼を、私はぴたりと静止し、怪訝な目で見やる。

それに気づいた彼は、「誤解するな、ストレートだから!」と、慌ててまた否定していた。

私たちのやり取りは素知らぬふりで、タマは再びどこかに向かって歩き始める。

沈丁花をバックに去っていく姿を見送っていると、ふと十年ほど前の、高校生だった頃のことを思い出した。

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