副社長とふたり暮らし=愛育される日々
「そういえば、昔病院で仲良くなったおじいさんも、猫が好きだったっけ……」


おばあちゃんのお見舞いをしに行った時、『いい匂いですね』と声をかけてくれた、あのおじいさん。その日以外にも、何度か会ったことがある。

病院の外庭に迷い込んできたらしい猫を見ていたおじいさんを見つけると、彼も私に気づいてくれて、話をしたのが二度目だ。

『猫が好きでね。家でもラグドールを飼っているんだよ』と言っていたっけ。

病人ではあっても、紳士的な雰囲気を漂わせる、とてもカッコ良いおじいさんで、私はなんとなく裕福な人っぽいな、というイメージを持っていた。


しかし、忙しいのか家が遠いのか、あまり家族がお見舞いに来れないようで、寂しそうな顔をしていたのを覚えている。

だから、私が話し相手になってあげようと思い、お見舞いに来る時は少しだけでもおじいさんにも会うようになっていたのだ。

そして、彼にも元気になってほしくて、沈丁花を少し分けてあげた。とても喜んで病室に飾ってくれて、私も嬉しかったな。

懐かしい記憶を蘇らせていると、お兄ちゃんのひと言で現実に引き戻される。


「朔也さんも猫好きなんだよな、見かけによらず」


おかしそうに笑っていたお兄ちゃんは、今の私に朔也さんの話題は禁物だと思ったのか、気まずそうな顔をする。

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