副社長とふたり暮らし=愛育される日々
「読み終わったらラックの中にでも入れておいて。私たちの目の保養用にするから」


おかしそうに笑った彼女は、腰を上げてドアのほうに向かう。はっとして顔を上げた私は、「お疲れ様でした!」と声をかけ、手を振って出ていく彼女から再び雑誌に目線を落とした。

どうやら、ユーフォリックモードの化粧品を取り上げ、代表して朔也さんのインタビューが載せられているみたい。

“女心を知り尽くしたイケメン副社長に独占インタビュー!”だって。いろんな意味ですごいな。

ちょっぴり笑いつつ、一ページにぎゅっと詰められた文字を追っていく。

若者向けブランドを作ったきっかけから始まったのだけれど、すぐに私はあることに気づき、目を見張った。

──そこに綴られていたものは、私にとってはただのインタビュー記事とは思えなかったから。


「うそ……」


しばらくして、視界が歪んで記事が読めなくなった。ぽたり、紙面に透明な雫が落ちてしまい、慌てて袖で拭う。

彼が秘めていた想いと過去を、たった今知った。まさか、こんな繋がりがあったなんて。


「さ、くや、さん……」


愛しい名前を呟くと、涙と一緒に想いが溢れ出す。

会いたい。今すぐに。明日なんて待っていられない。

胸がいっぱいで張り裂けそうだけど、涙を拭って荷物を持つと、ふくろうを飛び出す。

向かうのは、ユーフォリックモード本社。その中の副社長室を目指して、私は一目散に駆けていった。




< 228 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop