副社長とふたり暮らし=愛育される日々
ずっと昔、縁側に座って庭の花を見ながら、お母さんが教えてくれた。
『瑞香っていう名前は、この沈丁花からつけたんだよ。おばあちゃんが別名を教えてくれて、素敵だなと思ってね』と。
その時から、沈丁花は私の分身みたいに思えて、とても愛おしい花になった。
その花を、朔也さんも愛してくれている。記事に載っていた彼の言葉は、まるで私に告白してくれているみたいで、胸がいっぱいだった。
……まさか私が、お互いに顔を合わせる何年も前から彼に影響を与えていて、Mimiを作るきっかけにまでなっていたなんて。
この巡り合わせは、運命と呼ぶほかにない。
涙でぐちゃぐちゃになった顔も、仕事終わりで乱れた髪も気にせず、私は本社の中を駆け抜けた。
副社長室の前に辿り着くと、上がった息を整え、軽く握った手をドアに近づける。
……もしかしたら、もう愛想を尽かされているかもしれない。今さら謝ったところで、前のように愛してはくれないかもしれない。
それでも、想いを伝えなきゃ。朔也さんが大好きだって。
意を決してノックすると、中から「どうぞ」と彼の声が聞こえてくる。それだけで涙腺が緩むけれど、なんとか堪えて取っ手に手をかけた。
「失礼します」と言ってドアを開けると、デスクに座っていた彼が顔を上げ、その薄茶色の瞳を見開いた。