副社長とふたり暮らし=愛育される日々
目を伏せ、憂いを帯びた表情を見せる朔也さん。

彼の気持ちは、なんとなくわかった。お祖母さんを亡くした時の記憶があるから、余計に拒絶的になってしまったのだろう。


「それを変えてくれたのは、見ず知らずの女の子がくれた花だった」


手を伸ばせば届く距離まで来て、再び私を見つめる彼は、とても柔らかい微笑みに変わっていた。


「入院した当初はだいぶ弱ってたのに、余命宣告されてから三年も長く生きたんだ。それは、あの時瑞香が話し相手になってくれたおかげでもあると思ってる。ありがとう」


軽く頭を下げる彼に、私は小さく首を横に振った。

私と沈丁花のおかげだなんて……。信じられないけれど、本当によかったと思う。


「物忘れが激しくなってた祖父さんは、その子の名前がどうしても思い出せなくて。できるならその子に会って礼が言いたい、と俺はずっと思ってたが、さすがに十年近くも経てばすっかり諦めてたんだ。なのに、まさかオーディションで会うとはな」


今の朔也さんのように笑ってしまうくらい運命的な出会いだったわけだけど、私の胸とまぶたの裏は、じんわりと熱くなる。


「瑞香っていう名前と、花が好きっていうので、もしかしたらこの子なんじゃないかって。でも、本気でそうとは思ってなかったから、確信できたのはお前が酔ってこの話をした時だった」


それはきっと、お正月のことだよね。あの時にもうわかっていたのなら、教えてくれてもよかったのに。

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