副社長とふたり暮らし=愛育される日々
彼らがとても親しくて、この間会っていたのも、朔也さんの送別会みたいなものだったのだということはわかった。

わからないことは、あとひとつ。


「……どうして、海外出張のことを教えてくれなかったんですか?」


遠慮がちに問いかけると、朔也さんはぽりぽりと頭を掻いて、少し気まずそうに答える。


「単純に、嫌だったからだよ」

「え?」

「海外へ行く話をした時点で、お前が“じゃあもう同居生活も終わりにしよう”って言い出すかもしれない。そうでなくてもいずれ離れるってことを考えてたら、話すのが嫌になって、先延ばしにしてたんだ」


予想外の答えが返ってきて、私はぽかんとしてしまった。

私と離れることを考えたくなかったから、ってこと? そんなふうに思っていたなんて……これまた意外だ。


「ちゃんと自分から言わなきゃいけなかったのに、又聞きする形になって悪かった」


また謝る朔也さんに、私はちょっぴり気が抜けた笑いを浮かべて正直に言う。


「言ってもらえないなんて、私はたいして大切な存在じゃないのかなって思ってました……」


すると、わずかに眉をひそめてひとつ息を吐いた彼が、こちらに手を伸ばしてくる。背中を引き寄せられ、力強く抱きすくめられた。

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