副社長とふたり暮らし=愛育される日々
芳江さんにも高校生の娘さんがいる。『この間、娘の彼氏と会ってさぁ』と複雑そうな顔で話していたことを思い出し、明るい口調で聞いてみると、彼女は苦笑しながら言う。


「そうなのよ~。彼いいコそうなんだけど、やっぱりいろいろと心配になっちゃうのよねぇ」


芳江さんの気持ちもなんとなくわかって、私も同じく苦笑を漏らした。年頃の女の子の親というものは、きっと複雑な心境になるだろう。

すると、彼女は思い出したように「そういえば」と言って、こんなことを話し出す。


「最近、娘が香水つけ始めたのよ。モデルのりらちゃんに憧れてるんだって。もう色気づいちゃって困るわ~」


りらの名前を聞いた瞬間、コロッケが私の手からすべり落ちそうになる。「おととっ」と言いつつ、両手でコロコロと転がし、なんとかキャッチした。


「コロッケで遊ばないの」

「いや、あの、すみません」


淡々とつっこんだあと、おかしそうに笑う芳江さんに、私はとりあえず謝った。

たまにこうやってりらの名前が出たり、店長の娘さんが私が載っている雑誌を読んでいたりすると、いまだに動揺してしまう。

私に憧れて香水を使ってくれているだなんて、この上なく嬉しいことなのだけど、素直に喜べない。

りらの正体がこんな私で、なんかごめんなさい……。


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