副社長とふたり暮らし=愛育される日々
これから離れて、不安になることもあるかもしれない。けれど、きっともう何があっても迷わない。

私は私の、朔也さんが好きだという気持ちを信じるのみだ。

その想いを汲み取ってくれたかのように、彼も優しい瞳で私を見下ろす。ほんの数秒見つめ合っていると、ふいに三嶋さんがこんなことを言い出す。


「なんかお腹空いたわ。明智さん、いいお店知ってる?」

「では、四階に行ってみましょうか」


いきなり食事の話をし出すふたりをぽかんとして見やると、明智さんが姿勢を正し、朔也さんに向かって一礼する。


「副社長、いってらっしゃいませ」

「とっとと終わらせてきなさいよ」


ぶっきらぼうに言う三嶋さんに、朔也さんはふっと笑みをこぼし、「任せろ」とひと言返した。

表情を緩ませる三嶋さんと明智さんは、短い別れの言葉を告げると、なんだかあっさりとこの場を離れていく。

……もしかしてふたりとも、私たちに気を遣ってくれた?

何気に気を利かせてくれるふたりに感謝していると、七恵もすぐに察してくれたらしく、お兄ちゃんの服の袖を引っ張る。


「私たちも行きましょう。副社長、お元気で」


にんまりしながら七恵が言い、去ろうとするのだけど、ここで空気を読まないのが天然のわが兄だ。


「ちょっと待った! 朔也さん、ちゃんと瑞香に連絡してあげてくださいよ。向こうのブロンド美女と浮気なんかしたらもう、藁人形に釘百本は打ち込みますからね! あと──」

「ちーひーろさん! 行くよ!」

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