副社長とふたり暮らし=愛育される日々
一年以上はかかる予定だったところを、一日でも早く向こうでの事業を起動に乗せようと、手腕を発揮してきたつもりだ。

その正直な理由は、いたってシンプル。早く帰ってきたかったからだ。会社のことも気になるし、当然日本のほうが落ち着くし……何より、大切な人のそばにいたいから。

そうして、帰国する日は二月中旬の今日を選んだ。瑞香の勇士を見守るために。


「今日はこのあとすぐ発表会になりますが、本当に大丈夫だったんですか? 無理して出席されなくてもよかったと思うのですが」


空港から本社に向かう車中で、運転する明智が俺に目線を向けて懸念している。だが、心配には及ばない。


「会は毎年やってることだ、慣れてるし問題ない。新製品についても、フライト中に確認しておいたから」


淀みなく答えると、明智は呆れにも似た笑みをわずかに浮かべて頷いた。

彼の言う通り、約三時間後には新製品発表会が行われる。今回は、やっと発売に漕ぎ着けた、りらプロデュースの香水がお披露目されるのだ。

そのため、瑞香は挨拶だけでなく、プロデュースについての話もしなければならない。メディアに出始めた彼女だ、大きな注目を浴びることになる。

自分のことより瑞香のほうが気になる。ここぞという時はしっかりとやる彼女だから、きっと大丈夫だと思うが。

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