副社長とふたり暮らし=愛育される日々
ドアに背を向けて抱きすくめられていた瑞香は、ノックの音にも気づかなかったようだが、俺にはドアを半分開けて固まる明智がばっちり見えていて。

さりげなく立てた人差し指を唇にくっつけて合図すると、彼はすぐにそっと扉を閉めて、しばらくふたりきりにしてくれたのだった。

明智にはいろいろと迷惑をかけてるな、俺。

今さらながら反省しつつ、「そうだな、気をつける」と苦笑して言うと、彼と別れて三階のメイクルームへと向かった。


途中で会う社員と軽く挨拶を交わし、部屋の前で足を止める。この中に愛しい彼女がいると思うと、年甲斐もなく胸が踊る。

さらに綺麗になられていたらキスだけじゃ済まなそうだ、と危ない懸念をしつつ、ドアをノックした。

「はーい」と声がしたのを確認してドアを開くと、まず長い髪を揺らしてこちらを振り返った若松さんが目に入る。

メイク台の前に座る瑞香の後ろに立つ彼女は、俺を見てギョッとしたように目と口をぱかっと開く。


「えっ!? ふ、副社長!」


その声に反応した瑞香が、バッと勢い良く振り返る。

肩下五センチほどのセミロングになったブラウンの髪、瑞香の素顔を引き立てたナチュラルメイク。

以前の濃いメイクをした派手なりらとはだいぶイメージが違うが、俺はこっちのほうが好きだ。

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