副社長とふたり暮らし=愛育される日々
副社長の言う通り、私は仕事が終わると軽く香水をつけている。調理をしているとその匂いが身体についてしまうから、なんとなくごまかしたくて。

というか、副社長は匂いだけでりらだとわかったの? なんという嗅覚の持ち主!

前世は犬なんじゃないかと思いながらぽかんと見つめていると、彼はサンタの小道具をビジネスバッグに押し込みながら言う。


「まぁ、顔を見ただけでわかったけどな。モデルのオーディションの時、俺も面接官やってたから」

「あ、そっか……そうですよね」


そういえば、副社長は素の私を最初から見ていたんだった。履歴書も出してあるし、それで住所も知っていたのかもしれない。

それは納得できるけれど、肝心なことがわからないままだ。


「あの、でも、なんでここに?」


困惑を隠せずに問いかける私を一瞥した副社長は、それには答えず、少し肩を震わせて言う。


「とりあえず入らせてくれないか? 寒い」

「あぁっ、すみません!」


そうだよ、こんな玄関先で話していたら風邪をひかせてしまう。副社長の肩、雨でちょっと濡れているし。

気が利かない自分に反省しつつ、慌てて彼を中へ招き入れた。

……で、でも私、男の人を家に上げるの初めてなんですが。

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