副社長とふたり暮らし=愛育される日々
部屋の中は散らかったりはしていないけれど、とにかく古臭くて恥ずかしい。歩くたびにギシギシと鳴る廊下を進み、とりあえず居間に案内した。

こたつとテレビ、そしてストーブがあるくらいの質素な部屋を見回す副社長は、想像と違うと言わんばかりにぼそっと呟く。


「……部屋ん中もたいして外と変わらないとは」

「帰ってきたばっかりだったんですよ」


寒いのは決して古いせいじゃないですから、と心の中で言いつつ苦笑いする。まぁ暖房をつけていても、消した途端外に放り出されたかと思うくらい、保温性はない家だけど。

副社長って、結構遠慮なく思ったことを言う人だよなぁと分析しながら、そそくさとストーブをつけようとする。けれど、副社長は「あぁいいよ」と、やんわりと私を制した。


「これを渡したかっただけだから……って、同じもの買ってるし」


バッグとともに手にしていた袋をこたつの上に置こうとした彼は、そこに私が買ったケーキの箱があることに気づき、そう言った。

“同じもの”っていうことは、副社長が持ってきたものも、しずく堂のケーキ? 私が買ったものより箱は大きいけれど。

私の思い入れのあるお店のケーキを買ってきたのは偶然? とにもかくにも、この人の目的は一体なんなのだろうか。

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