副社長とふたり暮らし=愛育される日々
特別な夜=気分はシンデレラ
玄関の外にある小さな庭を通って道に出ると、見慣れない黒光りする車が一台、道の脇に停まっている。
品がある、やや丸みを帯びたセダンタイプのそれは、車に詳しくない私でも名前を知っている有名な高級車だ。思わず「すごっ」と声を出してしまった。
目を点にする私を気にも留めず、副社長は助手席のドアを開けて促す。
遠慮がちに乗り込むと、甘さと爽やかさのバランスが絶妙ないい香りに包まれた。仕事柄、香りにはこだわりがあるのかな、なんて思いつつ、高級感漂う内装を見回していた。
すぐに副社長が運転席に乗り込んできて、ドアが閉められると、密室にふたりきりだと急に意識してしまい、胸が騒ぎだす。
なんだか緊張して息苦しい……。安易について来るんじゃなかったかな。
男の人の車に乗せてもらうのなんて、お兄ちゃん以外では初めてだし、相手はあの副社長。夢を見ているように思えて仕方ない。
どこに行くかも教えてもらえないまま、車はゆっくり発進した。
エンジン音が静かな車内では、自分の心臓の音が大きく聞こえる。
片手でハンドルを握る副社長の姿は、文句なしにカッコいい。凛々しい横顔も素敵で、見ているだけで緊張が増してしまう。
雨を掻き分けるワイパーが動く前方に目線を移し、気を紛らすためにとりあえず口を開いた。