副社長とふたり暮らし=愛育される日々
創業二十年を迎えるユーフォリックモードは、リーズナブルなコスメや香水に力を入れ始めた数年前から、急成長している企業だ。商品は全国のドラッグストアなどで手軽に買えることもあり、若い女性から絶大な人気を得ている。

大手化粧品メーカーのように、有名な女優を起用してテレビでCMを流すような宣伝はしないけれど、口コミで広まって業界内でも知名度はあり、今後さらに飛躍するだろうと期待されているらしい。

ここまで成長させるのに、一役も二役も買っているのがこの御影副社長なのだと、七恵から聞いていた。尊敬しないわけがない。

三百名ほどの社員をまとめ、本社であるオフィスビルの中に、副社長室という自分専用の一室を持っているだけでもすごいことなのだけど。

しかし、当の本人は“たいしたことない”と言うように鼻で笑う。


「何もすごくないだろ。同じ歳で社長やってる奴も少なくないし、珍しいことじゃない」


優雅なハンドルさばきで運転を続ける副社長は、ちらりと私を見てこんなことを言う。


「俺からしたら、モデルをやってるお前のほうがすごいよ。自己管理をちゃんとして美を保ち続けるのって、かなり大変だろうから」


彼の言う通り、モデルを本業にしている人は、体重制限やお肌の手入れで大変な思いをしているはず。

だけど、私の場合はそこまで気を遣っていないのが正直なところ。幸い食べても太らない体質だから油断してしまうことも多々あるし、ちょっと決まりが悪い……。

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