副社長とふたり暮らし=愛育される日々
何も言えず肩をすくめていると、副社長はちょっぴり意地悪っぽく口角を上げる。


「まぁ、服装は気抜いてるみたいだけど」

「うっ」


そうだ、油断しているのはファッションもだった……。ほんとはっきり言うな、この人……。

今さらながら黒いコートを掻き合わせて隠すのは、高校時代から着ている、ゆるキャラみたいなひよこのイラストが胸のあたりにプリントされたトレーナー。パンツはウエストがゴムになっているスキニージーンズで、部屋着だと思われても文句を言えないスタイルだ。

オシャレしたい気持ちはあるけど、お金もないし、見せる相手もいないから結局こうなってしまう。仕事中はコンタクトをしているけど、普段はなんのしゃれっ気もない眼鏡をかけているし、余計にダサい。


だから私は、モデルという仕事が好きなのかもしれない。

自分ではできない派手なメイクをされて、スタイリストさんが素敵な服を用意してくれて、私は何もしなくても変身させてもらえるから。

他力本願で、自分磨きをしていないモデルなんて魅力ないよなぁ……と反省しつつ、ため息混じりに呟く。


「私、そもそもあんまりいい服持ってないんですよね……」

「そうだと思って、ここへ連れてくることにしたんだよ」


副社長の言葉に反応して、ぱっと外に目を向けると、大きなデパートがそびえ立っている。いつの間にか高速も下りていたらしい。

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