副社長とふたり暮らし=愛育される日々
そして、信号機についた標識をなんとなく見上げた私は、それを二度見してしまった。


「えっ、銀座!?」


青い文字は間違いなく銀座と書いてある。東京に住んでいても、私には敷居が高すぎる感じがして来たことはなかった。

絶対場違いでしょう! 私、ゆるキャラトレーナーを着た女だよ!?


「こ、こんなところで何を……!?」

「いい店があるんだ。行こう」


目を丸くする私に、副社長は前を見たままそれだけ告げた。あまり詳しく教えてくれないのは、彼のオハコなのだろうか……。

パーキングに車を停めたあと、当然ながら慣れている様子の彼について、なんだか緊張しながら銀座の街を歩く。もちろん、ダサいトレーナーはコートで隠して。

ものの数分で副社長が足を止めたのは、ガラス張りの高級感漂うアパレルショップの前だった。ディスプレイには、上品で大人っぽいコーディネートの洋服が飾られている。


「わぁ、素敵なお店……! ここに用があるんですか?」


興味深げに店内を覗きながら問いかけると、彼は「あぁ」と頷き、意味深な笑みを浮かべて私を見下ろす。


「少しお前を変えてみてもいいか? 俺好みの女に」


そんなひと言を投げかけられ、小さく胸が鳴ると同時に、副社長の目的をなんとなく理解して目を見開いた。

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