副社長とふたり暮らし=愛育される日々
始まりの予感=もっと知りたい
ヘアピンもお買い上げして、私たちはショップをあとにした。
小雨を受けるひとつの傘の下、背の高い副社長の隣に並び、さっきより断然堂々と銀座の街を歩く。次は彼が予約してくれているという、フレンチレストランへ向かう。
大きな通りから外れ、人通りが少なくなった路地に、白い外観のそれがあった。エントランスにはライトアップされた小さな池があり、その中に立つ一本の木には青白い電球がきらめいている。
見るからにお高そうな匂いがプンプンするレストランの中に、おずおずと足を踏み入れる。シックで落ち着いた雰囲気の店内は、大人のカップルやマダムな女性が多く、皆幸せそうに食事を楽しんでいるようだ。
クロークにコートを預け、大きな窓際の席に案内されると、外にはライトアップされた庭が見えて、ものすごくロマンチック。
「こんなオシャレなレストラン、初めて来ました。副社長はよく来るんですか?」
「いや、一回来ただけだよ。でも料理も美味いし雰囲気もいいから、また来たいと思ってたんだ」
副社長はスタイリッシュなこのお店もよく似合うなぁと思いつつ、「そうなんですね」と頷いて席についた。
キョロキョロと目だけを動かして観察すれば、皆綺麗に着飾っている。
本当によかった、服を着替えさせてもらって……。あんな地味スタイルじゃ、恥ずかしくて入れなかったわ。