副社長とふたり暮らし=愛育される日々
「そんなところまで気を遣ってくれたなんて……。すごくありがたいです」

「だろ。マナーはいつか三ツ星レストランに行って教えてやるよ」


余裕の笑みを見せる副社長だけど、そんな時が本当に来るとは思えない。社交辞令ってやつだよね。

私がこんな扱いをされるのは、きっと今日だけ。そうわかっていながらも、「お願いします」と返しておいた。


それから、たいしてお酒が強くない私でも飲めるワインを頼んでくれて、ふたりで乾杯する。

グラスを合わせようとした時、副社長が柔らかな声色で言った。


「誕生日おめでとう、瑞香」


……毎年お兄ちゃんがくれていたひと言を、今年は副社長が言ってくれるなんて。

彼が今こうしてくれている理由ははっきりわからないし、きっと何度聞いてもはぐらかされるだけだろう。

それでも、寂しいだけでしかないと思っていた誕生日を、温かい気持ちで過ごさせてもらっているのは事実。だから感謝を込めて、私は心からお礼を言った。


運ばれてきた料理の数々は、見た目も美しく豪華で、もちろん味も絶品。和っぽいものもあって、お箸で食べていても違和感がない。

目の前の彼は、食べ方も品があって綺麗だし、顔やスタイルだけじゃなく、佇まいまでもが魅力的だ。目が合った時に微笑まれるのも、ドキッとしてしまう。

まるで、彼だけのお姫様にでもなったかのような気分だな……。

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