副社長とふたり暮らし=愛育される日々

この夢のようなひと時は、あと少しで終わってしまう。でも、私はまだ副社長のことを何も把握していない。

彼がサンタクロースを気取って私のもとに現れた理由は教えてもらえなくても、ほかのことを聞いてみよう。何も知らないまま、今日を終えたくはない。

「あの」と声をかけると、彼はメインの煮込まれた牛肉をナイフで切りながら、こちらに目線を向ける。


「副社長の誕生日はいつですか?」

「俺? 十月二十日だが」


不思議そうな顔をしながらも答えてくれた彼に、さらに質問を続ける。


「覚えやすいですね。じゃあ、血液型は?」

「AB」

「あー、っぽい」


うんうんと頷いていると、副社長は軽く笑いながら一口大に切ったお肉を口に運ぶ。


「なんだよ、急に」

「副社長はわからないことばかりなので、なんでもいいから知りたいなと思って」


真顔になる彼に、今度は「好きな食べ物は?」と聞いてみる。

んーと少し唸って考えを巡らせた彼からは、こんな答えが返ってきた。


「から揚げとハンバーグと……オムライスやカレーも好きだな」

「お子様じゃないですか」


思わず吹き出してつっこんでしまった。

だって、羽振りも良くて、きっと舌も肥えているだろうこの人から、そんな可愛らしいメニューが出てくるとは予想外で。

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