副社長とふたり暮らし=愛育される日々
「意外です。もっと高級なものを言うかと思ったのに」

「やっぱり何度も食いたくなるのは、そういう庶民派な料理だろ。極論を言えば、俺は猫まんまでも満足する」

「猫まんま!?」


副社長ともあろうお方が……それは庶民派というより粗食ですよ!

堪えきれず、あははっと声を上げて笑うと、私を見つめる目の前のふたつの瞳が、ふっと細められる。


「やっと笑った。りらの時よりいい顔してる」


そう言われて、反射的に口元に手をあてた。

そういえば、声を出して笑ったのは久々かもしれない。少なくとも今日は、この瞬間まであまり笑えていなかったかも、と思う。

テーブルの中心に置かれた花に無意識に目線を向けていると、グラスに口をつけた副社長から、ふいにこんなひと言が出る。


「今日、俺がお前のサンタクロースになった理由、ひとつ教えてやろうか」


えっ、教えてくれるの? それはもちろん聞きたい!

願ってもない言葉に、興味津々でぱっと顔を上げると、彼は真面目な表情になって口を開く。


「俺も、お前のことが知りたかったからだよ。りらじゃなくて、春原瑞香のことを」

「へっ……?」

「ずっと気になってたんだ、オーディションした時から」

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