副社長とふたり暮らし=愛育される日々
オーディションの時、部屋の隅に飾ってあった紫色の花の名前を聞いてきたのは副社長だったな、と思い出しながら、笑みを浮かべて言う。


「そうでしたね。あの時の花がライラックだったから、モデルの名前をりらにしたんです」

「ライラックはフランス語でlilas(リラ)だからか」

「そう! よく知ってますね」


副社長の口からすぐに答えが出されて、また目を丸くすると、彼は当然というように腕を組む。


「Mimiの香水は花由来の香りが多いからな。そのくらいは知ってるよ」


あぁそっか、と頷く私。たしかライラックの香りもあったもんね。

Mimiの香水はあまり人工っぽくなく、花に近い自然な香りがする。だから私も、モデルを始める前から好きだった。


「花について語ってる時の瑞香の表情は、生き生きしてて魅力的だった。こんなに花が好きな子なら、きっとMimiのモデルとしていい働きをしてくれると思ったんだ。……まぁ、まったく着飾ってないこいつにモデルをやらせたらどう化けるだろう、っていう個人的興味も大きかったが」


したり顔をする副社長に、私は肩をすくめる。

採用された理由は、副社長たちの興味を引いた理由とも言えるだろう。私のどこを見て興味を持ってくれたのかを初めて知って、なんだか気恥ずかしくなった。

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