副社長とふたり暮らし=愛育される日々
副社長は薄茶色の瞳で私を見据え、落ち着いた声で話し続ける。


「それから、モデルとしてどんどん開花していくお前を見てたら、素の姿ももっと知りたいと思ったんだ。今こうしてる理由はそういうこと」


話が最初に戻って、やっとこの人の考えが少し理解できた。今日一緒に過ごしてくれているのは、私のことを知ろうとしているかららしい。

でも、わざわざ誕生日にする必要はあったのかな?

さっき彼は、『俺がサンタクロースになった理由、ひとつ教えてやろうか』と言っていたし、まだ何か思惑があるのだろうけど……。


「ほかの理由は教えてくれないんですか?」


探るような上目遣いで問いかけると、再びフォークを手にした彼は、意味深な笑みを見せる。


「今言えるのはこれくらいだ」

「えー」


不満げにふくれっつらをすると、副社長は「あぁ、あと」と何かをつけ足そうとするので、耳を澄ませる。


「春原瑞香は面白い子だ、ってよくわかったよ」


にこりと笑みを浮かべて告げられ、私は脱力した。

面白いってなぜですか……ゆるキャラトレーナーを着てたからですか……。


「なんかあんまり嬉しくないんですけど」

「なんでだ、褒め言葉だぞ」


口の端を引きつらせる私に、副社長は真面目な顔をして返す。

それでも、楽しいことは確かで。私は久しぶりに心が満たされる贅沢なひと時を過ごしたのだった。


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